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ミッションの策定方法
では、ミッションの策定の仕方を説明します。
いろいろな決め方がありますが、ここではミッションコーン1というフレームワークを使ってつくってみます。左ページの図をご覧ください。
三角形のいちばん上が、「ミッション」。目指す姿や提供する価値を定義したものです。それを支えるのが、その下の「ベネフィット」と「エビデンス」。
真ん中の段のベネフィットは「機能的ベネフィット(実利的で直接的に得られる価値)」と「感情的ベネフィット(目に見えず心理的に得られる価値)」に分かれています。ミッションを達成するために、目に見える形で「どんな価値を提供するか」「どんな感情的価値を提供するか」をここに書きます。
そして、「ベネフィット」を生み出す根拠になるものが、いちばん下の「エビデンス」です。ベネフィットが生み出される客観的な事実・根拠を書きます。
ミッションをつくるときは、2通りの手順があります。
ひとつは下から上に、エビデンス、ベネフィット、ミッションの手順でつくっていく方法。これは、いま自分が持っているスキルや資産などのエビデンスから、ミッションを考えます。
もうひとつは上から下に、つくっていく方法。これは、ミッションを明確にして、そのミッションの達成に必要なエビデンスを考えていきます。
1 ミッションコーン:自社や部署、プロジェクトのミッションを設定するためのフレームワーク。自分のキャリアや人生についてのミッションも同じように設定することができます。詳しくは『ミッションからはじめよう!』(並木裕太著)をご覧ください。
事例1 スターバックスのミッションコーン
ミッションコーンの説明をしましたが、ちょっと概念的で難しいので、事例をご紹介します。ひとつめは、スターバックス。ミッションは、「都会的なトレンドに敏感なお客様に、自宅でも職場でもない、第3の場所を提供する」。
それを実現するための「機能的ベネフィット」が、「家庭でも職場でも学校でもない場所でゆっくり自分らしく過ごすことができる」場所を提供するということ。
一方、感情的なベネフィットは、「かけがえのない1日が豊かになる」。スターバックスで過ごすと、それが手に入るということですね。
いきなりミッションの「第3の場所を提供する」と言われても、具体的にイメージできないので、それをベネフィットでちゃんとブレイクダウンしているんですね。
これらのベネフィットを支えているのが、この下のエビデンスです。たとえば、豊かな1日を提供するために良質で多品種のコーヒーの提供をしたり、BGMやソファーでくつろげる雰囲気を演出したり、バリスタをお店に置いて質の高いサービスを提供したり、ということですね。
事例2 BMWのミッションコーン
次の事例はBMWです。ミッションは、「人生を走る人、3%のプレミアムな人に駆けぬける歓びを提供する」。
機能的ベネフィットは、「本物の走り」。駆けぬける歓びを味わえるような走りが実現できる機能・性能になっていますよ、ということです。
感情的ベネフィットは、「ブランド哲学への共感による歓び」。これは、このターゲットである3%の人たちが共感できるような哲学を持っていますよ、ということを言っています。
エビデンスには、そのベネフィットを提供できるだけの研究開発とかデザイン、サービスのことが挙げられています。
ターゲットを明確にする
2つの事例を見てもらうとわかるように、ミッションには、自分たちの付加価値を誰に提供するのかというターゲットが明確に表現されています。スターバックスは、「都会的なトレンドに敏感なお客様に」、BMWは「3%のプレミアムな人に」です。
BMWは特に、とても限定されたターゲットを設定しています。実際BMWを買っている人は「3%のプレミアムな人」だけじゃない。それ以外の人もいっぱい買っています。でも、あえてターゲットを「買ってほしい人」に絞ることによって、ブランドのイメージをつくり上げているわけですね。これも、ターゲットを設定する方法のひとつです。
この事業を通じて、誰のどんな課題を解決したいのか、誰の生活をどのように変えたいのか、具体的なターゲットの姿を意識しながら事業のミッションを考えると、具体的でイメージのわきやすいものができてくると思います。
A事業の魅力度を考える
ミッションが決まったら、事業の魅力を考えます。つまり、事業を始めるにあたって、「その事業がどのくらいのポテンシャルを持っているのか」が大事ということですが、当然ですよね。どんなに素晴らしい意義のあるミッションができても、事業をやっていくうちに、「もしかして、この市場、思ったより小さい?」ってなると困ります。先ほども言いましたが、意義のあるミッションと儲かるかどうかの経済性の両立が大事です。
ここでは、その事業にどれくらいのポテンシャルがあるのか、つまりどれくらいの市場規模があって、自社が勝てる可能性はどのくらいあって……という見方を解説していきます。
3Cを使って市場を分析する
事業の魅力度を考えるフレームワークとしていちばん適しているのが、「3C」です。すごくメジャーなフレームワークなのでご存知の方も多いと思いますが、私たちコンサルタントもこれをほんとうによく使っています。事業環境などを見るときは、必ず3Cを使いますね。ほかの複雑なフレームワークもありますが、3Cで十分事足ります。
簡単に説明しておくと、Customer(顧客)とCompetitor(競合)とCompany(自社)の頭文字をとって3Cですね。ここにChannel(チャネル)を加えて4Cとすることもありますが、今回は3Cしか使いません。
A事業の魅力度を考える 市場を見る
いちばん初めに見るべきところは、市場です。市場、つまりニーズがなかったら、自社が何をどうがんばってもどうしようもないですから。ですから、市場から見てみましょうというのが、常套手段です。そして市場の見方は2種類あります。
・定性的に見る→消費者の声
これは、消費者に提供しようとしている商品やサービスに対してのニーズがあるかどうかを把握すること。つまり、「消費者の声」で市場を見るということです。こんなことしてほしいとか、こんなことあったらいいのになと思っている消費者の声を聞いてみること。
・定量的に見る→消費者の声の大きさ
もうひとつは、そのニーズがどの程度の規模(市場規模、自社の売上見込み)があるのかを想定することです。つまり、「消費者の声の大きさ」で市場を見るということです。それによって事業規模自体が決まってきます。
定性的に見る@ 「思いつきレベル」から「課題レベル」へ
定性的に消費者のニーズを見る場合、まずはちょっとした自分の経験や気づきから感覚的に「これってニーズがあるんじゃないか」と思い始めることが多いと思います。自分が困っていることがあって、きっとみんなも困っているはず、じゃあこんな商品つくったら売れそうだな、というような発想です。これは、しっかりした根拠のない「思いつきレベル」です。けっこう身に覚えがありませんか?
ここで大事なのは、この「思いつきレベル」を「課題レベル」にまで高めることです。誰のどのような問題をどうやって解決するかということが明確になっているのが、「課題レベル」です。事業として成立するレベルまで、思いつきのアイデアを一般化していかないといけない。
たとえば、友人の独身女性が「すてきな男性との出会いがない」と嘆いているのを聞いて、「同じように思っている人はたくさんいるはず」と思い始めます。
でも、これじゃなんとなく思っているだけなんですね。このレベルだと、この先何をやったらいいのかという発想がわきにくい。「あぁ、そうかもね」となるだけで、議論が進まない。完全に自分の感覚でパッと思いついたというレベルが、「思いつき」です。
それを「世の中の課題」ととらえると、「30代を中心とした女性は、日常生活だと職場くらいしか男性に会う機会がないから、簡単に男性に会う方法を求めているはずだ」「そういう方法が必要なはずだ」というところまで一般化・具体化できる。そうすると、このニーズがあるかないかを調べる方法はなんとなくイメージがわきますよね。
「誰の=30代女性の」「どんな問題を=男性と出会う時間がないという問題を」解決する、というレベルになっていると、課題をどうやって解いたらいいかという議論ができます。たとえば、アフターファイブに婚活パーティをやればいいとか、会員制のマッチングサイトを立ち上げようとか思いつきますよね。
「思いつきレベル」から一歩深く考える。この一歩がすごく大事です。「誰のどんな問題を解決するのか」まで掘り下げるようにしてください。
定性的に見るA ほんとうにニーズがあるのか検証する
次は、その課題やニーズがほんとうにあるかどうかを検証しましょう。
すごく簡単な方法から難しいものまで、いろいろな手法があります。ハードルの低い方法から順にご紹介しましょう。
・グーグルなどの検索サイトで調べてみる
いちばん簡単ですね。グーグルなどでちょっと検索すれば、検索ワードに関連した情報はX個と出てくる。検索結果をいくつか見てみれば、その課題についてどんなふうにみんなが思っているのかという感覚が、だいたいなんとなくわかります。
・身近な人に聞いてみる(2〜3人)
検索と同じくらい簡単なのは、近くの人に聞いてみること。今日のランチに行ったときに、まわりの人にちょっと聞いてみるようなレベルです。簡単ですね。
・身近な人に聞いてみる(10人くらい)
もうちょっと深くやろうと思うと、ターゲットの人、つまりそのニーズがありそうなもう少し多くの人に聞いてみる。先ほどの例ですと、友人に頼んだりして30代独身女性10人くらいに直接ニーズを聞いてみる。ちょっとハードルが上がりますよね。
・有料の調査情報を購入する
さらにハードルを上げると、有料のレポートや調査情報を購入するという方法があります。たとえば、さっきの男女のマッチングの市場の大きさや、マッチングサイトを使っている女性の数、1日のアクセス総数などの情報を入手することができます。
・市場調査(アンケート)を行う
既存のデータがない場合は、自分で調査を設計して、アンケート項目を一生懸命つくり、それを100人とか200人に配るという方法もあります。あるいはアンケートや市場調査の専門業者に依頼することもできます。このへんになると、けっこうな金額と手間がかかってきます。
・実際に簡単なモデルで試してみる
これはいちばんハードルが高いですが、実際に小さいモデルケースやプロトタイプ(試作品)をつくって、試してみる方法。たとえばいまだと、iPhoneのアプリとかって、クラウドソーシングで開発者を募って中国など海外でやってもらうと、数万円でできちゃう。「こんなアプリあったらいいよな」が、数万円くらいでできちゃうなら、お願いしてつくってもらって、それを試してみるというのも、魅力的ですよね。
でも、さすがにこれはけっこう難しいです。開発者への依頼の仕方とか、要件の定義とか……。ですから、これは自分や自社がスキルや人材を持っていてすぐできるときは有効ですが、まだ計画という段階だと、ここまではなかなかできないです。
調査の難易度と検証の精度は比例します。最初のほうの方法は、調査のハードルは低いですが、その分、精度が悪かったり、ほんとうに知りたいことがわからなかったりします。最後にいけばいくほどハードルは高いですが、知りたいことを精度高く確実に知ることができます。
調査にかけられる時間がどれくらいあるかということも、どのレベルまで調べられるかに関係してきます。たとえば、調査期間が1か月くらいあったら、30代女性30人にアンケートするくらいはできますよね。一方、1日でサクッと調べちゃうなら、検索とまわりの人に聞くくらいのレベルでいいでしょう。ですから、時間と精度と難易度の兼ね合いでどのレベルまで調べるか決めるようにしましょう。
繰り返しになりますが、事業計画の大事な目的のひとつは、関係者を説得することです。「すごい事業を思いつきました。これ、絶対儲かると思うんです!」って言っても、自分ひとりで言っているだけだと、やっぱり説得力がない。身近な人10人に聞いてそのうち8人がいいって言っているんだったら、ちょっといけそうな気もするね、というふうにだんだん説得力が増します。一般の人何百人にアンケートを取って、みんなも欲しいと思っているという結果が出れば、さらに説得力は増します。
市場を見るというと、まず市場の大きさを計算しようと考えがちです。でも、「そこそこニーズありそうだよな」とか、「やっぱりみんな困っていたんだ」というように定性的にニーズをつかむことが、実は先なのです。そして、ある程度、この市場はいけそうとか、この事業はニーズがありそうということを把握することが大事です。